青鬼の褌を洗う女

 

もう誰のことも、心から好きになることはないだろう。

 

つまらないのだ、恋愛なんてただそれだけ。

肩を抱かれたり、手を握られたりしても、ただただ面倒で、別にふりほどこうともしないから、うぬぼれた男が要求してくるけれど、うん、いつかね、と答えて、もうそんな男のことは忘れる。

散歩、買物、映画、喫茶、それらのことはたかが風景にすぎない。そんな遊びのあとでは、いつも何かつまらなくて、退屈、心の重さにうんざりしてしまう。

浮気は退屈千万なものだということを知っていた。しかし、人生はそれぐらいのものだということも知っていた。

 

あの時からわたしの人生は、永遠に浮気があるだけだ。

わたしの恋人は、永遠に夢の中で生育した特別なあの人だけだ。

それはわたしのあみだした生存の原理、魔術のカラクリであって、それがカラクリであるにしても、ともかく、わたしは概念の恋人によって生きている。

あの町のどこかであの人が自我を持って生きている。息をしている。それだけでたまらなく愛しく思える。そのバカらしさを知りながら、その夢に寄生し続けている。

わたしが夢に描いて恋いこがれているあの人は、もはや現実のあの人ではない。夢の中だけしか存在しないわたしのひとつのあこがれであり、特別なものであった。

 

今日も別の誰かの腕の中で、概念の恋人の夢を見る。

このまま、どこへでも、行けばいい。わたしは知らない。

わたしはいつか地獄へ落ちるだろうと考える。まぬかれがたい宿命のように考える。

やがて青鬼赤鬼が夜這いにきて、鬼にだかれても、わたしはやっぱりニッコリして腕をさしだすのだろう。

わたしはだんだん考えることがなくなっていく、頭がカラになっていく、ただ媚びて、それすらも意識できなくなっていく。

すべてが、なんて退屈だろう。しかし、いかに退屈であろうとも、この外に花はないのだろうか。